2018.02.17 全ての始まり

2019年の香港民主化デモ(「反送中」運動)の背景に様々な起因がある。直接な引き金は政府が発表した『逃亡犯及び刑事案件における刑事共助条例』、いわゆる『逃亡犯条例』の改定にある。ただし、他には様々な原因が綯い交ぜにした。例えば民主改革への渇望や、銅鑼湾書店株主と従業員の失踪事件(中文English Wiki)、そして「高度な自治」の喪失に対する広がった不安。その後警察当局が取った行動(警察による恣意的な暴力&逮捕の記録 中文English)と、条例改正は違法な立法手続きだとの認識は、香港全域でさらなる抗争を引き起こした。

潘暁穎殺人事件は、香港人少女潘暁穎が台湾台北市大同区紫園旅館で殺された殺人事件である。容疑者陳同佳も香港人であり、被害者とは恋人関係である。二人が2018年2月8日から台湾へ旅行に行き、同月17日潘は旅館で殺害され、翌18日遺体は台北捷運・竹囲駅外公園の草群れに遺棄された。陳は事件後、航空機に搭乗し香港に戻った。

2018年12月4日、台湾の法務部は香港に陳の身柄引き渡しを求めたが、香港当局は、台湾と刑事共助条例が結ばれていないのを理由に、陳の身柄を台湾に引き渡し、裁判にかけることができないとした。(中華民國法務部《為積極追訴重大犯罪 向香港提出遣送請求》 繁体字中国語)

2019年2月12日、香港保安局はこの事件をきっかけに『逃亡犯条例』改正案草案を提出した。その草案によると、香港政府は中国内陸、マカオと台湾などの司法管轄区域相手に、身柄引き渡しと刑事共助ができるようになる。

2019年3月12日、台湾の立法院は臨時議案を可決し、香港政府に対し、条例修正案の適用範囲を香港と台湾に限定するよう求めた。

2019年6月9日まで、当局が条例を用いて、異見者、急進分子と外国人訪問者を含む香港の人々を、中国共産党に支配された中国裁判所に裁判をかける恐れがあるため、多くの民間団体や政党は草案に反対意見を表明した。

反対声明を発表した団体と個人は以下の通り(提出順、日付は2019年)

政党

民主党(2月13日)公民党(2月13日)香港衆志(2月17日)

人民力量、工党、公民党、社会民主連線(2月20日)

民間団体

50位上の民間団体連名(2月20日)

法政匯思(2月22日)

在香港米国領事カート・トング(2月26日)

弁護師

香港法廷弁護士連合会の修正案に関する意見書(3月4日)

香港米国商会(3月4日)

政党

自由党(3月7日)

ビジネス界

香港総商会(3月19日)

中華廠商会(3月20日)

国際社会

ヨーロッパ連合(3月23日)

学者

大学学者連名(3月24日)

ビジネス界

香港米国商会(3月29日)

大富豪・華人置業元会長劉鑾雄(4月1日)

香港法廷弁護士連合会の修正案に関する二度目の意見書(4月2日)

報道業界

香港記者協会、香港写真記者協会、独立評論家協会、大学ジャーナリズム教職員連席、明報労働組合、壹傳媒労働組合、国境なき記者団、香港電台放送制作従業員労働組合、衆新聞、D100、Hong Kong Free Press、独立媒体網、本土新聞、852郵報、立場新聞(4月3日)

国際社会

英国国会庶民院外交事務委員会(4月4日)

台北弁護士連合会(4月9日)

香港各界商会連席(4月17日)

カナダ外務省(4月18日)

国境なき記者団(4月18日)

在香港英国領事(4月20日)

香港美国商会(5月29)

香港政府に対して、サンセット条項などの方法で、即ち台湾当局と一回限りの協議を結び、陳同佳の身柄を引き渡すことで、条例修正にあたる建言もしたが、政府に受け入れてもらえなかった。

修正案に関する意見は次の通り:

3月法廷弁護士連合会の要望書では、『刑事司法管轄権条例』と『人身侵害罪条例』において、刑事裁判所の管轄範囲を、香港永久住民が海外で犯した殺人まで拡大するとともに、香港で域外の殺人事件の容疑者を取り調べ、公訴できるようにする修正案を提言した。

4月、嶺南大学元助教授陳雲(陳同佳とは無関係)は「香港で逮捕、香港で裁判」と提唱した。具体的に言うと、香港で中国と香港の合議裁判所を設置し、香港で逮捕された容疑者の案件を審理する。

政府支持の立法会議員田北辰・新民党副主席や、憲法学者陳弘毅・香港大学法学院教授も「香港で逮捕、香港で裁判」を提案、まず台湾当局と一回限りの協議を結び、潘暁穎殺人事件を処理することを勧めた。

民主派の立法会議員楊岳橋(公民党)も『人身侵害罪条例』の修正を提言、香港人が域外で犯した児童に対する性犯罪の処理方法に倣い、香港人が域外で犯した殺人罪と傷害致死罪も香港で審理できるよう法改正を提案した。

立法会議員尹兆堅(民主党)は同じ目的を満たすため『刑事司法管轄権条例』の改正を提案。香港律師会は台湾の殺人事件を審理するため、『刑事司法管轄権条例』の適用範囲を殺人罪と傷害致死罪まで拡大する上、遡及条項を入れることで、香港の裁判所の域外司法権を拡けることに賛成した。

それにもかかわらず、政府は香港が三権分立であることや、普通法において法改正が許されないなどの理由で意見を却下、あくまでも『逃亡犯条例』の改正に拘った。

その後争議が広がり、やがて「反送中」運動の導火線となった。